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「さくたろうの呪い」 縁寿+さくたろう+天草

小説というか小ネタ↓
 


右代宮縁寿は、マルフク寝具店の片隅で見つけたものに息を飲んだ。
ビニル袋の中に、そこにあるはずのない物、もとい、者達を見つけたのだ。
「信じられない……これが、魔法なのね……」
「お嬢?」
震える縁寿を天草が気づかう。
縁寿はそれに気付く余裕もなく、ビニル袋に近づいた。
そっと手を伸ばす。
ビニル越しに、ふんわりと柔らかなぬいぐるみ達の感触が指に触れた。


「さくたろう……!」
真里亞の遺した日記に描かれていた絵とまったく同じぬいぐるみが、
楼座が真里亞のために作ったと書かれていたライオンのぬいぐるみが、
軽く十体は袋詰めにされている。
黄色い体、白いおなか、茶色のたてがみ。
間違いない。
でも、どうしてここに?
どうして、さくたろうがこんなにたくさん……?


縁寿はそこで真実に気付いた。
魔法というものの本当の意味にも、気付いてしまった。

――さくたろうは、楼座叔母さんに作られたんじゃなかったんだ。

縁寿の胸の中で、怒りの炎が揺れる。
あの叔母のことだ。
男遊びに夢中になるあまり、
娘の誕生日プレゼントを作る時間が無くなったのだろう、と簡単に推測できた。
直前になって焦り、市販のぬいぐるみを買い求め、ラッピングをして娘に手渡す。
「あまりうまく作れなかった」ともっともらしい嘘まで重ねて。


「真里亞お姉ちゃん……」
縁寿は従姉が哀れで仕方なかった。
母を愛しながら憎み、幼くして死んでいった従姉が。


「あの、これをひとつ、いただけませんか?」
せめてもの供養になれば、と縁寿はぬいぐるみ達を指して振り返った。
真里亞が命を落とした島へ供えてやれたなら、きっと喜ぶだろう。
ぜひ譲ってほしい、と口を開きかけたとき、ビニル袋の中から囁き声が聞こえた。


「うりゅ! あれって見習い魔女のエンジェだよね?」
「真里亞の従妹の? もっと小さい子じゃなかったっけ?」
「あれから十二年も経ってるんだから、育ってるに決まってるじゃないか、うりゅ」
「うりゅ……おっぱいが大きくなってる」


縁寿がおそるおそる振り返ると、十体ちかい数のさくたろう達が、
ビニル袋の中でぎゅうぎゅうと押し合いながらこちらを見ていた。
「あの小さかった縁寿がねぇ、あんな立派なおっぱいに育つなんて」
「うりゅ。おっぱいソムリエの戦人も予想外だろうね」
「お前ら、そんなことより重要なことがあるだろ!」
「うりゅー、何?」


「この中から一体だけがこの袋から出て島へ行けるんだ」


ぬいぐるみ達のうちの一体からその台詞が発せられた瞬間、
ビニル袋の中は大混乱を起こした。

 

「じゃあ、僕が行きたい! うりゅ!」
「ダラズ! 僕が行くに決まってるだろ!」
「行ったらいいことがあるの?」
「そりゃ、だって、『さくたろう候補』から『さくたろう』になれるんだから」
「ってことは、七杭のお姉ちゃん達におしくらまんじゅうされたりも……ごくり」
「僕! 絶対に僕が行く!」
「誰がお前なんかに行かせるか!」


ビニル袋の中で喧嘩が始まる。
「縁寿、僕を選んで!」
「うりゅっ! 僕! 僕を選んで!」
「ダメだよ、僕を選んで!」


縁寿は困惑しながらビニル袋の中を見つめた。
そして、天草を見上げた。
「天草、あんたがひとつ選んで」
「はい? どれでも同じぬいぐるみでしょう?」
「いいから」
「はあ……」
よく解らないながらも、天草はビニル袋に手をつっこんだ。
十体ちかいぬいぐるみの中から一体を掴み出す。


「ラッキー! これからは僕が『本物のさくたろう』だ!」
「ちくしょう、七杭のおっぱい押しくらまんじゅうが……!」
「くそっ、呪ってやる!」
「呪ってやる!」
「うりゅ! 呪ってやるぞ、天草!」
選ばれた一体が喜び、残りが嘆いて呪詛を吐く。
縁寿にはそれが聞こえたが、天草の耳には届かない。
が、聞こえないながらも天草はなぜか身震いした。


「……なんか、嫌な感じがしたんですけど……お嬢」
「他人に恨まれるって、怖いことよね」
縁寿が、はぁっとため息をつく。
天草はわけが解らず、あいまいに笑った。
「は? はあ……」
困惑しながら、天草は縁寿にぬいぐるみを手渡す。
「呪ってやる!」
「おっぱいまみれになるチャンスが!」
「呪ってやるぞ、天草!」
天草はぞくぞくと背筋を震わせた。


「行くわよ、天草」
「……へい、お嬢」
縁寿の後をついて歩きながら、天草はちらりと後ろを振り返った。
ビニル袋の中には、ライオンのぬいぐるみの群。
さっきの悪寒は何だったのだろう、と思いながら、
天草は川畑に頭を下げて縁寿の後を追った。
 

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